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ワックスは、戻ってきません

手彫り原型を鋳造に出す前にしておくこと / MESREH編集部 / 2026.10.01 公開

手で彫ったワックスを鋳造に出すとき、いちばん知っておいていただきたいのは、ワックスは鋳造の工程で燃えてなくなり、手元に戻らないということです。ロストワックスという名前のとおり、ワックスを溶かして抜いた空洞に金属を流し込むので、届いた金属が唯一の形見になります。だからこそ、送る前の数十分の準備で、あとの安心が大きく変わります。工房で毎日ワックスの箱を開けている立場から、送る前にしておいてほしいことを順にお話しします。

写真と寸法の記録

箱に入れる前に、ワックスを四方から写真に撮っておいてください。正面、横、裏、そして一番見せたい角度の4枚あれば十分です。リングなら内径と腕の幅、ペンダントなら縦横と厚みを定規かノギスで測り、メモしておきます。

これは疑っているからお願いするのではありません。仕上がった金属を見て「ここはもう少し鋭かったはず」と感じたとき、比べる材料が手元にあるかどうかで話の進み方が違うのです。鋳造と研磨を経た金属は、ワックスよりわずかに角が丸くなります。記録があれば、その差が工程によるものか、直すべきものかを一緒に判断できます。

重さを量っておく理由

ワックスの重さを0.01g単位のはかりで量っておくと、金属にしたときの重さの見当がつきます。ワックスと銀では比重がおよそ10倍違うため、ワックスの重さのおよそ10倍強がシルバーでの重さの目安です。0.5gのワックスなら、シルバーでおよそ5g強になります。ワックスの種類によって比重が少し違うので、あくまで見当です。

金額は地金代とキャスト工賃で決まり、地金代は重さで決まります。重さの見当があれば、金やプラチナに変えたらどのくらいになるかも想像がつきます。キャストのご依頼のページでシルバーでの重さを入れると、素材ごとの目安がその場で出ます。素材による違いはシルバー・K18ゴールド・プラチナの選び方もあわせてどうぞ。

薄いところ、細いところ

彫っているときは指先の感覚で「これくらいなら持つ」と判断しますが、溶けた金属は人の指より不器用です。薄すぎる面や細すぎる線には金属が回りきらず、欠けや穴になることがあります。リングの腕のように着けたときに力のかかる部分は、見た目より少し厚めに残しておくと安心です。

彫り終えたワックスを光にかざしてみてください。向こうが透けて見えるところは、たいてい薄すぎます。気になる箇所があれば、写真を添えてお申し込みの際にお書きいただければ、届いた時点で確認してご連絡します。無理に鋳造して失敗するより、先に一言いただく方がワックスにとって安全です。

梱包と、夏の熱

ワックスは思っているより割れやすく、思っているより熱に弱い素材です。小さな箱にティッシュや綿を詰め、ワックスが中で動かない状態にしてから、さらに外箱に入れる二重の梱包をおすすめします。爪や細い線がある面は、緩衝材が直接押さないように向きを考えて入れてください。

見落とされがちなのが熱です。真夏の車内や、日の当たる郵便受けに置かれた箱の中では、ワックスがやわらかくなって形が変わることがあります。夏場は投函型ではなく手渡しの配送を選び、到着日を平日にしていただくと、受け取ってすぐ工房の中に入れられます。配送業者に「割れ物」の扱いを伝え、シールを貼っていただくとさらに安心です。

複数のワックスをまとめて送るとき

複数のワックスを一度に送っていただく場合は、1本ずつ小袋に分け、袋に番号を書いておいてください。お申し込みの「型ごとの内訳」に、番号ごとの素材と本数を書いていただければ、取り違えが起きません。型やワックスがいくつあっても、お申し込み時の前払い金は¥1,500で1回です。前払い金は全額が最終金額に充てられます。

1つしかない原型を、次も使いたいなら

ワックスが戻らない以上、同じ形をもう一度作るには何かを残す必要があります。方法は2つです。1つは、仕上がった最初の金属を原型にしてゴム型を取る方法で、ここから何本でもワックスを取れるようになります。もう1つは、金属やワックスを3Dスキャンしてデータにしておく方法で、データがあれば型の保管すら要りません。

手彫りの味をそのまま残したい方には前者を、サイズ展開や細かな修正をしたい方には後者をおすすめしています。手彫りからCADに移る方も増えていて、データを作る費用の考え方はデータを作ってもらうと、いくら?に、手彫りと3Dプリントの原型の違いはワックス原型の作り方に書いています。仕組みの全体像を知りたい方はジュエリー3Dプリント完全ガイドからどうぞ。

送る前に、一言だけでも

形見の品から型を取りたい、大切な1点ものを預けたいという場合は、送る前に必ずご相談ください。現物から作る場合はいったんゴム型を取るため、お品物に負担がかかることがあります。個人の方の1個のワックスでも、工房にとっては同じ1本の仕事です。不安な点はお問い合わせから、写真を添えて気軽にお送りください。

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